
明治時代 月給20円って高いの
明治時代を舞台にした朝ドラ『ばけばけ』の中で、トキという女中が「月給20円で雇われた」と話すシーンが話題になっています。でも、「20円」って当時としては高いの?それとも普通?現代の感覚ではなかなか想像がつきませんよね。
この記事では、明治時代の物価や賃金を具体的にひもときながら、「月給20円」がどれほどの価値を持っていたのかをわかりやすく解説します。ドラマの世界観をより深く理解するためにも、歴史的背景を知ることは大きなヒントになりますよ。
この記事でわかること
- 明治時代の平均的な給料水準と物価
- 「月給20円」が現代でいうとどれくらいの価値か
- 女中という職業の待遇や生活の実態
- 松江の暮らしと地方都市ならではの物価感覚
明治時代の「月給20円」とはどれくらいの価値?
朝ドラ『ばけばけ』の劇中で、トキという登場人物が「月20円で雇われた」と話すシーンがありました。令和の今を生きる私たちにとっては、20円と聞くと「駄菓子1個分?」と思ってしまいますが、明治時代の20円は桁違いの価値がありました。この章では、当時の平均賃金や物価と照らし合わせながら、「月20円」が実際どのくらいの金額だったのかを具体的に紐解いていきます。
明治30年代の平均賃金と比較してみよう
明治30年代(1897〜1906年)頃の労働者の月給は、以下のような水準でした。
| 職種 | 月給の目安 |
|---|---|
| 男性丁稚(奉公人) | 5〜8円程度 |
| 女性女中 | 2〜5円程度 |
| 工場労働者(男性) | 約10円前後 |
| 小学校教員(初任) | 約12〜15円 |
| 下級官吏 | 約20〜30円 |
ご覧のとおり、当時の女中の給料は一般的に月3〜5円程度が相場でした。そんな中で「月給20円」は、実に平均の4〜5倍にも相当します。これは、下級の官吏や教師と同等、もしくはそれ以上の水準です。
つまり、ドラマの中の「月給20円で女中を雇う」という描写は、当時としてはかなりの「高待遇」であったことがわかります。
現代の貨幣価値に換算すると?
「明治時代の20円は、現代ではいくらになるのか?」を正確に出すのは難しいのですが、いくつかの方法で換算することが可能です。
たとえば、内閣府の『明治〜令和の物価指数』を参考にすると、明治30年代の1円は現在の約5,000〜6,000円相当と推定されています。単純計算すれば:
20円 × 約5,500円(1円あたり) ≒ 約11万円
つまり、現代の感覚でいえば月給11万円ほどの価値があったということです。ただし、これは「物価水準での比較」であり、生活にかかる費用や貨幣の価値観の違いも考慮すると、実質的な体感価値はもっと高かったとも言えるでしょう。
一般家庭の生活費と照らしてみると…
明治時代の庶民家庭が1ヶ月に必要とした生活費の例を見ると、次のようになります。
| 項目 | 目安(円) |
|---|---|
| 米(10kg) | 約1円前後 |
| 味噌(1kg) | 0.3〜0.5円 |
| 醤油(1L) | 0.3円程度 |
| 木賃宿(簡易宿) | 1泊 0.1〜0.2円 |
| 衣料費 | 月1〜2円 |
このように見ていくと、「月給20円」もあれば、独り身なら十分に生活でき、ある程度の贅沢も可能だったことがわかります。
女中の給料は安い?高い?職業ごとの比較
明治時代の「女中」という職業は、当時の女性が働ける数少ない職業のひとつでした。家庭内での雑用から子守り、炊事、掃除まで幅広く担うポジションでありながら、その報酬は決して高いとはいえませんでした。この章では、同時代の他職業と比べて、女中の待遇がどうだったのかを見ていきましょう。また、ドラマ『ばけばけ』のトキのように、月給20円という破格の待遇がどれほど異例だったのかも考察していきます。
女中と他職業の月給比較(丁稚・職人・教師など)
明治30年代の主要な職業の月給相場は、以下のとおりです。
| 職種 | 月給(円) | 備考 |
|---|---|---|
| 女中(住み込み) | 2〜5円 | 食事・住居付き |
| 丁稚奉公 | 1〜3円 | ほぼ無給の場合も |
| 大工・職人 | 10〜15円 | 日当制のことも |
| 小学校教員 | 12〜20円 | 地域差あり |
| 軍人(下士官) | 約10〜15円 | 手当込みで変動 |
| 官吏(下級) | 20〜30円 | 公務員の一種 |
ご覧のように、女中の月給は他職と比べてもかなり低く、最下層に位置していたことがわかります。しかしこれは、**「現金給与が少ない代わりに、衣食住が保障される」**という雇用形態によるものです。
「住み込み」「食事付き」は大きなメリット
現代のアルバイトやパートと違い、当時の女中はほとんどが「住み込み」でした。雇い主の家に寝泊まりし、毎日の食事も支給されていたため、支出がほとんどありませんでした。
たとえば、外で暮らす女性労働者が食費・宿泊費として月に3〜5円かかるとすると、月給5円の女中の「実質的な可処分所得」は、それ以上の価値があったともいえるでしょう。
そのため、「生活の保証」と「経験を積む場」として、地方の若い女性にとっては魅力的な仕事だった側面もあります。
トキのような優遇ケースは珍しかった?
『ばけばけ』に登場するトキは、月給20円で雇われた設定ですが、これは明らかに異例です。仮に以下のような条件であれば、その高給にも納得がいきます。
- 小泉八雲のような「文化人」の家庭で特別な役割を担う
- 長年仕えて信頼されている「上女中」の立場
- 家事全般に加え、来客対応・外国人対応など高度な業務を行う
実際、上流階級や外国人家庭では、**「スキルのある上女中に10円以上」**を支払う例もあったとされます。
トキの待遇が高い理由は、彼女のスキルや信頼性、そして雇い主の特別な事情によるものと考えられます。
明治時代の暮らしと物価をもっと知ろう
「明治時代の20円は高かった」と言われても、実際にどのくらいの物が買えたのかを具体的にイメージするのは難しいかもしれません。この章では、明治30年代における日用品・食品・住まい・娯楽の物価を具体的に紹介し、当時の庶民がどんな生活をしていたのかをわかりやすく解説します。また、『ばけばけ』の舞台である松江という地域の生活水準にも触れ、地域性がどのように暮らしに影響したのかを考察します。
当時のお米・味噌・醤油の値段は?
明治時代の物価の目安を食品に絞って見てみましょう。
| 品目 | 価格(明治30年頃) | 現代換算(おおよそ) |
|---|---|---|
| 白米(10kg) | 約1.2円 | 約6,000円相当 |
| 味噌(1kg) | 0.3〜0.5円 | 約1,500〜2,500円 |
| 醤油(1升=1.8L) | 約0.3円 | 約1,500円 |
| 鶏卵(1個) | 約0.02円 | 約100円 |
| 大根(1本) | 約0.01円 | 約50円 |
上記のように、1円でもある程度の食料が買える時代でした。つまり、20円もあれば1ヶ月どころか数ヶ月分の食糧をまかなえる金額だったといえるでしょう。
この物価水準を見ると、月給20円の女中というのが、食事付き・住み込みであった場合、ほとんど使い道がないほどの余裕ある生活ができたことがわかります。
娯楽・教育・住居費ってどれくらい?
生活に必要な費用のほか、明治時代の「ゆとり支出」も見てみましょう。
| 項目 | 費用 | 備考 |
|---|---|---|
| 映画鑑賞(活動写真) | 約0.05円〜0.1円 | まだ普及初期段階 |
| 小学校の学費(年) | 約1〜2円 | 公立は安価だった |
| 家賃(長屋) | 月1〜2円 | 木造の簡素な住宅 |
| 着物(普段着) | 約3〜5円 | 手縫い・綿製 |
庶民の生活はつつましいものでしたが、「娯楽を楽しむ」「子どもを学校に通わせる」「着る物を新調する」といった基本的な生活の質を保つには、月10〜15円あれば十分だったと考えられます。
したがって、月給20円というのは、「小金持ち」に相当する水準だったといえるでしょう。
ばけばけの舞台・松江の生活水準とは?
『ばけばけ』の舞台である島根県・松江は、明治時代には地方都市として静かな発展を遂げていた地域です。
- 人口は約3〜4万人規模
- 交通はまだ不便で、鉄道が開通したのは明治40年(1907年)
- 経済基盤は農業・商業が中心、東京や大阪に比べると物価もやや安め
このような背景から、松江では「月給20円」の価値は、さらに大きくなります。東京では月15円で暮らせた人が、松江なら10円で同じ生活ができたとも言われています。
つまり、トキのように松江で月給20円をもらっていた人は、まさに「特別待遇」として羨望の目で見られる存在だったと考えられます。
まとめ:月給20円が語る『ばけばけ』のリアリティ
朝ドラ『ばけばけ』に登場するトキの「月給20円で雇われた女中」という設定は、史実と照らしても非常に高待遇だったことがわかります。明治30年代の女中の平均月給はわずか2〜5円程度。それに対してトキの20円という金額は、当時の下級官吏や小学校教員にも匹敵するほどの水準でした。
また、現代の貨幣価値に換算すると約11万円以上に相当し、しかも「住み込み・食事付き」の条件を考えれば、ほぼすべてを貯蓄に回せるような状況です。これは、当時の庶民にとっては夢のような話であり、トキがどれほど信頼され、特別な立場にあったのかを示す象徴とも言えます。
さらに、物価や生活費の実情、そして松江という地方都市の生活水準からも、「月給20円」がいかに異例であったかが浮き彫りになります。ドラマの演出が単なるフィクションではなく、しっかりとした歴史的背景に根差している点は、視聴者にとっても大きな見どころの一つでしょう。
今後、『ばけばけ』を観る際には、こうした「時代背景に基づくリアリティ」にも注目してみると、より一層深く物語を楽しめるかもしれません。




